村の女性の話_Tさんの場合
Tさんと村の女性の話、
慣習を守ろうとする人と、変化する人の間で起こる
気持ちのぶつかり合いについて書きます。
少し長くなりますが、よかったら読んでくださいね。
Tさんはサドナと出会って活躍している女性の一人です。
雨漏りする家で暮らしていた頃、サドナと出会い、
職人となり、収入を得て、暮らしは改善していきました。
さらに仕事に励み、人をまとめる力をつけ、
女性グループのリーダーになりました。
そして村の議会に参加するほどになりました。
女性の活躍する社会を目指すサドナにとって、
Tさんはすばらしい人生を切り開いた仲間の一人です。
Tさんは今、サドナのお店で接客をしています。
お店には主に中流層より上のインドの方、観光に来ている外国人など、
フェアトレードに関心がある人々がやってきます。
(少なくとも村の女性たちよりは)自由で、金銭的に豊かで、
おしゃれをして自己表現を楽しむ女性たちに日々触れることになります。
接客を通して、消費者のニーズを知る経験になることはもちろん、
村とは違った生き方をする女性たちに出会い刺激を受けて、
Tさんの可能性はますます開かれていきます。
この夏、サドナでは初の大イベント「バス旅行」が行われました。
まずはリーダーだけの少人数でするはずでしたが、
結局希望する職人は誰でも参加できることになり、およそ250人の大旅行に。
Tさんはそのバス旅行にサドナの素敵な服を着ておしゃれをして参加しました。
藍染のブロックプリント布を使ったノースリーブのトップスに合わせて、
同じく藍染のロングスカート。赤い差し色が効いたコーディネイトがすてきでした。
サングラスをして、古いアーチの前に立つその写真は雑誌のモデルのようでした。
後日、村の職人たちの集まりがあったときに代表のシーマさんが
バス旅行の写真をみんなに見せました。
楽しかったバス旅行をみんなで振り返ろうとして。
写真をみる村の女性たちからは次第に怒りの声があがりました。
「Tさんはなんて格好をしているの!」
「こういう場ではサリーを着るべきだ!」
「非常に恥ずかしいことだ!」と。
思いもかけない反応に代表のシーマさんはびっくりして、
「バス旅行でどんな格好をしようが構わないでしょ?
フォーマルな場でもないし、サリーじゃなくてもいいはずです。
なぜそんなに怒るの?なぜそうなるの?」
と言いましたが、女性たちの間に大きな溝を感じたそうです。
Tさんは今、閉鎖的な村の価値観に耐えられなくなって、
子供を連れて村を出てウダイプルの都会で暮らしています。
おしゃれをして自己表現を楽しむTさんを、村の女性たちは不愉快に感じました。
女性たちにとっての常識?ルールを守らなかったから。
「守ること」の感覚はそこに住む人にしかわからないのかもしれませんが、
この場合、それは「守るべきこと」だったのでしょうか。
この怒りが表すものは、
これまで守ってきた大事なものが壊される?のを拒む気持ち、嫌悪、
また一方で出る杭を打つような集団感覚かもしれないし、
嫉妬や妬みの気持ちもあるのかもしれません。
サドナの女性たち、
自分の力で仕事を身につけ、挑戦し、変化への一歩を踏み出してきた人たち。
その道中で、女性の間でも目指すもの、考え方や感覚に違いがでてきても当然です。
守るもの、残るもの、変わっていくもの、変わってしまうもの。
変わってしまうことに気持ちが追いつかないこともあります。
変わってほしくないものもあります。
村の女性にとって、それは大事なことだったのでしょう。
でもTさんの気持ちを思うと悲しくなってきます。
サドナでの出来事は、インドの他人事ではなく、
自分自身にも思い当たることとして「あなたはどうなの?」と問いかけてきます。
妬みや嫉妬の気持ちは、自分にも思い当たることとして突きつけられます。
私は自尊心が足りていないのかな〜などと、ふと思い出しては考えたりしています。
次はTさんになんと声をかけようかなぁ。